聖火リレーを斜めに拝見

東京五輪聖火リレーは各地で公道走行が中止になるなど、ご難続きだったが、わが埼玉県では予定通り公道を走るらしい。それに、あまり報道はされないけど、肝心の聖火ランナーよりもパートナー、つまりスポンサー企業の宣伝カーがのさばっている、うるさ過ぎるとの批判もある。じゃあ、ちょっとのぞいてみるか。県内での予定を調べると、某日午後、わが家からそう遠くない西武線狭山市駅の近くを走るらしい。散歩がてらに出かけた。
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でも「三密」は嫌だ。そんな場合は遠くに離れて眺めていよう。開始予定の30分ほど前に現地に着いた。聖火リレーが通る道の両側には、人々が集まりだしていたが、密集というほどではない(上の写真)。道路わきでのんびりと聖火を待つことにした。
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なるほど、聖火リレーの先導車に続いてまず目に飛び込んできたのは、聖火ランナーではなくて、「日本生命」と記した赤い車だった。車の上では、若い女性が手を振りながら、しきりに何やら叫んでいる(上の写真)。
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青い車もやってきた(上の写真)。「NTT」と書かれている。その前をこれも若い女性たちが手を振りながら歩いてくる。
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コカ・コーラ」も赤い車でやってきた(上の写真)。沿道の観客に何やらを配っている。僕も手を出してみたら、下の写真のようなタオルをくれた。そこには「ワールドワイドオリンピックパートナー」と書かれている。東京五輪の最上位のスポンサーである。「トヨタ自動車」の宣伝カーもいたはずで、コカ・コーラのすぐ後ろの車がそうだろうか。
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僕は1964年の東京五輪聖火リレーも取材がてら、佐賀市で見たことがある。新聞記者になって2年目のことで、当時はスポンサー企業の宣伝カーなんてものは見かけなかった。先導車のすぐ後ろには走者がいたはずである。聖火リレーはずっと簡素だった。ただ、宣伝といえば、三菱自動車(当時は三菱重工業)がデビューしたばかりの「デボネア」なる高級乗用車を随行車に提供していた。当時の「アメ車」風の車で、ちょっと異彩を放っていたが、今回のスポンサーのような派手さは全くなかった。

閑話休題。2020東京五輪聖火リレーの話に戻る。スポンサー企業の宣伝カーが次々と通過していく中、僕からそう遠くない歩道のそばに、若い女性が1人、聖火を灯すトーチを持って立っていた。前のランナーから聖火を引き継ぐのだろう。日本生命の最初の車が通過してから15分や20分は経っただろうか。やっと聖火がやってきたが、宣伝カーやら何やら、周りがごちゃごちゃしていて、聖火引き継ぎの肝心の場面を撮り損なった。やっと写せたのは、彼女の後ろ姿だけだった(下の写真)。
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ところで、沿道に立っていると、聖火リレーのスタッフがやってきて、いろいろと「注意」をしていく。例えば、「聖火ランナーと並行して歩道を走らないでください」。「危険」というのが禁止の理由だろう。でも、聖火ランナーは実にゆっくりと走っている。歩くのとほとんど変わりがない。一緒に歩道を少しくらい進んだって、どれほどの危険があるのだろうか? とにかく、この種の催しの関係者は何かと規制したがる。

先日の朝日新聞の投書欄に「遺族の願いかき消す『復興五輪』」というのが載っていた。宮城県在住の投書の主がテレビで見たそうだが、東日本大震災で当時小学生だった娘を失った男性が聖火ランナーに選ばれた。そこで男性は津波が小学校を襲った日、娘が自宅に置き忘れていた名札を胸につけて、娘とともに走ろうとした。だが、主催者側から断られた。ユニホームに何かを着けて走ることは、大会の規定で認められないというのだ。確かに、政治的なスローガンは困るだろうけど、主催者側の態度はあまりにも人間味に乏しい。
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聖火はこの23日、最終ランナーによって国立競技場の聖火台に灯されるはずである。どんな趣向が凝らされているのかは知らないが、上の写真はわが畏友の武田秀雄氏が東京五輪などをテーマに著した版画集『WORLD NIGHT SPORTS』に出てくる開会式の模様である。版画集にはこの種のちょっとドキリとする絵が90枚ほど収められている。武田氏はロンドンの大英博物館に招かれて個展を開くなど、知る人ぞ知る人物なのだが、この版画集は自費出版で、いま出版社を募集中とのこと。無観客の五輪をテレビで見るよりも、これを眺めていたほうが楽しいかもしれない。