配偶者同伴外交は是か非か

5月19日から21日まで広島市で主要7カ国首脳会議(G7サミット)が開かれた。様々なテーマがあったそうだが、いささかへそ曲がりの僕は、首脳たちのうち配偶者を同伴してくるのは誰か、同伴してこないのは誰か――そんなことに興味があった。

僕はかつて「夫人同伴外交なんていらない!?」という記事をどこかに書いたことがある。当時、安倍晋三首相が妻昭恵さんと手をつないで、あるいは腕を組んで、政府専用機のタラップを上り下りする光景をよく見せられた。昭恵さんには当然、かなりの公費が使われたはずだ。私たち国民は安部氏を支持していたかどうかは別として、議会制民主主義のもとで彼を首相に選んでいた。しかし、昭恵さんを「ファーストレディー」に選んだつもりはない。ふたりが夫婦であるのは私的なことだ。昭恵さんは「私人」である。それなのに、夫の公的な外遊に私的な間柄の妻がなぜついていくのか? そんな疑問を感じたのだった。

今回のG7サミットでは、各国の首脳たちの配偶者同伴状況はどうなのか。それを見る格好の舞台が19日午前に行われた首脳たちの平和記念資料館訪問だった。テレビの実況中継を見ていると、資料館の入り口近くで待ち受ける岸田文雄首相と妻裕子さんの前に配偶者同伴でやってきたのは米国のバイデン大統領、英国のスナク首相、ドイツのショルツ首相、欧州連合EU)のフォンデアライエン欧州委員長だった。ちなみに、米英独の配偶者は女性、EUのそれは男性である。一方、一人で現れたのはフランスのマクロン大統領、イタリアのメローニ首相、カナダのトルドー首相、EUのミシェル首脳会議常任議長だった。メローニさんは女性、ほかは男性である。

ところで、男女4人の配偶者のお相手役は、もっぱら岸田首相の妻の裕子さんだった。報道によると、「パートナーズ・プログラム」と呼ばれているとのことで、裕子さんの案内で平和記念資料館を訪問したほか、連日の懐石料理などの昼食会、伝統舞楽の鑑賞、香道、茶道の体験などいろいろとあった。気の張る会議もなく、多分のんびりとして贅沢で楽しい毎日だったのではないか。すべて公費で賄われたのだろうけど、裕子さんもお疲れ様ではあった。彼女は本来「私人」であるのに、まるで「公人」のような働きをさせられた感じでもある。いくばくかの「お手当」でも出たのだろうか? 

7カ国やEU以外の首脳たちの配偶者同伴状況はよくは分からなかったが、少なくとも韓国のユン大統領は配偶者と一緒で、配偶者は裕子さんとお好み焼きランチを取りながら懇談したそうだ。裕子さんも忙しいことだ。

――と、ここまでは裕子さんに同情してきたが、その1カ月ほど前には、彼女は夫とは関係なく一人で「公費」を使って米国ワシントンに旅行してきている。バイデン大統領の妻ジルさんから招かれたからだそうで、朝日新聞によると、ホワイトハウスには約2時間にわたり滞在し、裕子さん自身がたてたお茶を飲みながら懇談した。昼食会では、女性の活躍を一層促進することについて意見交換した。大統領執務室ではバイデン氏とも短時間、言葉を交わした。その後、ホワイトハウスの庭に移動し、桜の木を植樹した。ジルさんは「この木の植樹は両国の友好を永遠に象徴するものです」と述べたそうだ。

ところで、「私人」である彼女に公費を出したことについて松野博一官房長官は「首相夫人が招待に応じて米国を訪問することは外交儀礼上、意義のあることであり、配偶者間の交流の促進を通じ、首脳間の友好、信頼関係の一層の促進にもつながるものと期待されている」と説明している。

へぇ~、「配偶者間の交流の促進」がそれほど有意義なものであるならば、世界中の首脳の配偶者たちは公費で海外旅行三昧(ざんまい)といったことにもなりはしないか。それに、公費を出すと言っても、旅費や宿泊費を渡すだけで「行ってらっしゃい」では済まない。なにしろ、首脳の妻や夫である。付き添いの役人が少なくとも一人や二人はいるだろう。行き先の大使館も気を遣う。金も使う。とても安くはつかない。

このブログの題は「配偶者同伴外交は是か非か」だが、僕はやはり「非」としたい。首脳らには「公私」のけじめをはっきりとつけてもらいたい。そうでないと、岸田首相の秘書官である長男のように、あろうことか、公邸に親族を集めて忘年会をやらかすような輩が出てきてしまうのではないだろうか。