中国に「ありそう」で「ない」もの

経済の高度成長を続ける中国では、今やないものはないといった感じもする。スーパーや市場に行けば、日本と同じように、味もにおいもほとんどしない(食べたくもない)トマトもたくさん売っている。これも成長の成果(?)なのだろうか。そんな中国でも、実際に暮らしていると、ないものも結構あって、不便に思うことが少なくない。以下は「中国にありそうでないもの」のいくつかである。ただし、ハルビンと桂林での僕の経験に限っての話だ。北京や上海に行けば、そうでないかも知れない。

【長くて、よくたわむプラスチック製の靴べら・靴すべり】
桂林の街中の靴屋を探し回ったが、どこも「没有」「没有」(メイヨウ ありません)。値段の高い靴を買うと、ちっちゃな靴べらが付いてくるようだが、靴べらだけは売らないとのことだし、そんな小さな奴はいらない。1軒の靴修理屋で長さが50センチほどある、日本の奴によく似た売り物をやっと見つけて買ったが、翌日には折れてしまった。プラスチックがほとんどたわまないせいだ。仕方なく日本から取り寄せた。その靴べらを見て「あら、先生、素敵ですね」と言う塾の生徒がいたので、帰国した折、お土産に買ってきた。

【眼鏡のクリーナー】
シュッ、シュッと眼鏡に吹き付ける奴だ。探せども探せども見つからない。眼鏡をふくには、息を吹きかけてレンズを曇らせるだけで十分だ。あるいは水道水につけてもいいのだから、そもそも不要なのだろう。でも、僕は欲しい。帰国のたびに大きめの奴を1本ずつ買ってきている。

【小銭入れ】
こちらでも硬貨が増えてきたから、小銭入れも必要とは思うのだけど、まだお目にかかったことがない。日本製や韓国製だと、財布にだって小銭入れが付いているが、中国製の財布にはそれもない。僕は小銭入れを2つ持っているが、どちらも日本で100円で買ってきた。値段から見て、中国製だろうか。

【パンティーストッキング】
こいつは中国にないわけではない。むしろ、いっぱいある。ところが・・・何年か前、帰国の折に、お土産でも探そうとデパートをうろついていたら、パンティーストッキングが目に付いた。今の中国では珍しくもなんともないだろうが、ふとしたら「日本製」ということで喜んでくれる人がいるかも知れない。そう思い、いくつか買った。ただし、僕が直接、こんなものを配ったら「エロじじい」と言われるのが落ちだろうから、同僚の中国人の女の先生に「塾からのお礼が必要な時にでも、適当に使ってください」と渡しておいた。

意外にもこれが好評だった。中国製とは全く履き心地が違うとか。僕は着用したことがないから、よくは分からないけど、なんでも日本製はお尻のあたりの締まり具合が得も言われないんだそうだ。「もう中国製は履く気がしなくなりました」と言う女性もいる。おかげで以後、パンティーストッキングはお土産の定番になった。お礼のほか、パーティーの景品に使ったりしている。

【粘着テープ】
包装の時なんかに使う奴だ。これもこちらにいっぱいあるが、とにかく使いにくい。テープを切る時に切りにくいし、その「切れ目」もどこにいったのか、よく分からなくなって、イライラさせられる。その点、日本製の粘着テープ、なかでも布製の奴は使い勝手のいいこと、この上もない。簡単に切れるし、切れ目が分からなくなるなんて不細工なことも絶対にない。わが塾が以前に借りていた部屋は、床のタイルが安物で、あちこちにひび割れができた。その補修用にも日本製の布粘着テープを重宝していた。日本に戻るたびに1つか2つ、買ってくる。

【食品包装用ラップフィルム】
日本では『クレラップ』とか『サランラップ』とかいった商品名で売っている奴だ。中国では品名を「保鮮膜」と呼んでいる。ネーミングはこちらの方がいいと思うが、さっきの粘着テープと同様に使いにくくて仕方がない。フィルムも薄っぺらでナヨナヨしている。イライラする。これも、日本に戻るたびに2つか3つ、買ってくる。この前、こちらのテレビを見ていたら、「使いやすくなりました」と、保鮮膜の広告を盛んにやっていた。中国の消費者からも「使いにくい」と不評なのだろう。

日本で聞いた話だけど、知人の娘さんがニューヨークに住んでいる。その娘さんから「ラップを送ってほしい」とのSOSが入ったとか。中国はおろか米国までもが台所用品ひとつ、満足に作れない。細かい話だが、わが塾の黒板で使うチョーク――字を書いていると、こいつがポキポキ折れる。白い粉が飛び散る。頭に来て日本からたくさん買い込んできた。イライラがなくなった。最近は昔日の面影を失いつつあるようだが、腐っても鯛、「ものづくり」はやはりわが日本なのであろうか。