パロディーはお好き?

一瞬、わが目をこすった。写真のような店と遭遇した時のことだ。あれ? DFCだって? KFCにそっくりだけど、ケンタッキーフライドチキンとは少し違うみたい。 それともKとDを書き間違えたの? わが南寧からバスで2時間ほどの田舎町でのことである。

店の大まかなつくりは中国にも多いKFCそのものだ。ファストフードの店である。だが、KFCとは外観が微妙に違っている。下の写真が南寧のKFCである。両者はまさに「似て非なる」と言える。

ちなみに「ケンタッキー」を中国語で書くと「肯徳基」だ。発音記号のピンインで表すと「kendeji」となる(ただし、発音を上げたり下げたりの「四声」の記号は省いている)。中国人が「kendeji」と言っているのを聞くと、とても「Kentucky」とは聞こえない。「ケンドォジー」といった感じに聞こえる。

ところで、「美味基」がどうしてDFCになるの? FCはフライドチキンだろうが、Dは何? 美味基のピンインは「meiweiji」だからMFCなら分かるけど・・・いや、「美味」は英語で「delicious」だ。Dはその頭文字のようだ。なかなかに凝ったネーミングである。

知ったかぶりの、中国語や英語の薀蓄(うんちく)はさて置き、KFCの看板にある「顔」は創業者のカーネル・サンダースおじさんだが、DFCのおじさんは誰? 同じように蝶ネクタイをして眼鏡を掛け、ともに髪は白いものの、顔つきは随分と違う。欧米人ではなくアジア人だ。この店の創業者だろうか?

中国人はすぐ外国のものを真似る、偽物を作る。そう非難されることが多い。僕も以前、この『なんのこっちゃ』でバイク、スクーターや乗用車のマーク、エンブレムのそれらについて書いたことがある。でも、このDFC――ここまでやれば「偽物」と非難するのはいささか酷ではないか。偽カーネルおじさん?だって本物をおちょくっている感じでおかしい。ユーモアがある。この地の人たちの知的水準の高さを表している。これは「パロディー」に格上げしてあげたい。

この田舎町から南寧に戻り、スーパーをうろついていたら「丸大食品」の「焼のり」が置いてあった。丸大食品ってハム・ソーセージの会社だと思っていたけど、焼きのりもやってるんだ。そう思ってよく見ると、丸大食品ではなく「九人食品」となっている。下の写真である。

じゃあ、九人食品という会社があるんだ。今度はそう思って包装をひっくり返してみると、メーカーは全く別の名前の中国の会社である。九人食品は単なる商品名らしいが、「丸」と「大」から線を1本ずつ抜いて、丸大食品をおちょくったのだろうか。これもなかなかに凝った「パロディー」ではないか。

同じスーパーにキャラクターの女の子がよく似たラーメンが2種類並んでいた。包装もよく似ている。明らかにどちらかが他方を真似ている。下の写真がそうで、どちらも生めん、左が「伊都拉面」、右が「味千拉面」という。「拉面」は「ラーメン」のことである。右側の味千ラーメンは九州は熊本の出で、日本全国での知名度は知らないが、中国では有名である。すでに600以上のラーメン店を展開していて、南寧にも店がある。大きなスーパーには生めんが置いてある。そして、味千と伊都、ともに深圳にある工場の「生産許可証号」というのを見ると、味千が先輩である。後輩の伊都が真似たことは歴然としている。

でも、これも偽物ではなく「パロディー」に格上げしてあげたい。先輩は片目をつぶっているが、後輩はしっかりと両目を開けている。試しに伊都を買って食べてみたら、ビチャビチャしていて僕にはまずかった。最後まで食べられなかったが、先輩に追いつき追い越すぞという意気込みは感じられる。スーパーでも店員は伊都を盛んに勧める。味千ラーメンの会社に聞くと、この伊都ラーメンの会社は味千に勤めていた中国人が独立してつくった。似たキャラクターに対しては今のところ、苦情は言っていないとのことだった。

次はわが住まいの近くにあるコンビニ「セブン‐イレブン」じゃなかった、「セブン‐サンデー」である。その次も同じくセブン‐サンデーだが、女の子向けの衣料品の店で桂林にあった。「礼拝天」とは「日曜日」のことだ。前者は「パロディー」にしてはイマイチひねりが足りないが、後者はまあ滑り込みセーフというところだろうか。

「偽物」だと思うと不愉快になるが、「パロディー」だと考えると楽しくなる。許せてしまう。だが、店名の話のついでに言えば、「吉野の家」という日本料理店が南寧にあった。何のパロディーかは説明を要しないが、いつの間にかつぶれてしまった。しょせんパロディーはパロディー、命は長くないということかも知れない。