スーパーで商品をいじり回さないで

東京都の小池百合子知事は大型連休前の記者会見で都民に、スーパーなどでの買い物を「3日に1回程度」にするよう呼び掛けた。さらに、事業者に対しても、買い物かごの数を制限したりして、入店者数を抑制するように求めた。新型コロナウイルスの感染者が拡大するなか、生活必需品を扱うスーパーなどは休業要請の対象ではないため、非常に混雑するところも出てきている。そこで、密閉、密集、密接のいわゆる「3密」を避けるための都知事からの要請だった。

埼玉県の片田舎に住む僕には、スーパーの混雑なんて、それほど関係のない話である。我が家の近くには歩いて行ける範囲にスーパーが3つも4つもあるが、いつ行っても、そんなには混んでいない。ただ、小池さんにはせっかくだから「3日に1回程度」以外にもうひとつ、言ってもらいたかったことがある。

それは、スーパーでは「商品をあまりいじり回さないでください」ということである。

たとえば、イチゴの売り場。おばさんがパックに入ったイチゴを手に取り、それこそ上から下から、前後左右からといった感じで眺めている。やがて、そのパックを元の棚に戻して、別のパックを手に取る。それが何回か続く。最後に、どれかを買い物かごに入れるのならまだしも、どれも入れず、別の商品がある次の棚に向かう。そして、また同じことを繰り返す。

イチゴの場合は、まだいい。一応、パックに入っていて、イチゴ自体はおばさんの汚い(失礼)手には触れない。だけど、例えばトマトの1個売りの場合は、僕が行くスーパーでは、パックなぞには入れていない。むき出し、丸裸のまま並べてある。おばさんはそれをまた1個、1個、上から下から、前後左右から……トマトの「弾力」を確かめているようでもある。張りのあったトマトがブヨブヨしてきそうだ。

新型コロナウイルスが蔓延する前なら、それを許してもまだよかった。僕も目くじらは立てなかった。しかし、もし今、イチゴやトマトをいじくり回したおばさんの手に問題のウイルスがいっぱいついていたとしたら……そして、おばさんのあとで同じスーパーに行った僕が、そのイチゴやトマトを買ったとしたら……まことに気の毒なことになるかもしれない。

大阪府松井一郎知事が小池さんの会見のあと、次のようなことを記者会見で話したそうだ。「我が家では、妻が買い物に行くと、いいものかどうかってね、いろいろ商品を手に取るんで、時間がかかる。僕は言われたら、そこへ直接行って、どういうもんであろうと手に取って、かごに入れて、会計して帰ってくるんで、我が家では僕のほうが早いということです」。つまり、女性ではなく男性がスーパーに行けば「3密」は避けられるということである。

彼の発言はそれなりに事実である。たしかに、商品をいじくり回すのは、僕が見るところでも、おばさんに多い。でも、おじさんだって、負けてはいない。先日、30歳くらいの男性がスーパーのバナナ売り場にいた。彼はパックに入ったバナナを順番にいくつも手に取り、重さを量っているみたいだった。重いほうがお買い得ということだろうか。

あるときは、50歳代とおぼしきおじさんが、山積みされたブロッコリーを1個ずつ手に取って眺めている。5個、6個は手でつかんだだろうか。そして、結局はどれも買わず、去って行った。僕もブロッコリーを買いたかったのだが、その気持ちはすっかり失せてしまった。

日本のこんなスーパー事情を上海にいる中国人の知人に伝えたら、「じゃあ、ネットで注文して宅配で買えばいいじゃないですか」との返事。「いや、日本ではそう簡単にはいかないのですよ」と打ち返すと、上海での宅配事情を写真つきで知らせてきた。
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上の写真が、知人の勤め先の1階にある、日本語で言えば「野菜配送センター」の看板ならびに入り口で、下の写真が、これから宅配に向かうバイクの群れとのこと。こんな施設が上海市内には至るところにあるそうだ。
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そして「少し大げさに言いますと、夕食を作ろうとして、鍋に油を入れてから、『ああ、あれも必要だった』と気づいて注文しても、間に合います」。野菜に限らず、肉類でも醤油でも、今やなんでも宅配で間に合う。スーパーももちろんあって、直接ここで買ってもいいのだが、スーパーからの宅配もOKで、そのせいかスーパーはがらがらだそうだ。

スーパーで商品をひとつひとつ見比べて買うのがいいのか、ネットで注文する宅配がいいのか、一概には言えない。ただ、上海でのように、宅配が主流になれば、小池知事の発言や僕のお願いは不要になり、新型コロナウイルス感染症の拡大防止にもつながるかもしれない。